夫が不倫をしたことをきっかけに夫と離婚した場合、不倫相手に対する慰謝料の金額が高くなるのか

滋賀の弁護士の安田です。

私は、離婚案件はあまり取り扱っておりません。
ですが、不倫(不貞)慰謝料請求案件については、
お受けすることがあります。

慰謝料(いしゃりょう)といいますのは、
かんたんにご説明致しますと、
被害者が受けた精神的苦痛をつぐなうお金
です。

 

不倫をきっかけに夫婦が離婚をした場合、不倫相手に対する慰謝料が高くなる?

一般的には、
不貞慰謝料請求案件において、
不倫をきっかけに夫婦が離婚をした場合には、
夫婦が離婚していない場合と比べると、
不倫相手に対する慰謝料が高くなると考えられているとは思います。

確かに、離婚をした場合には離婚するほどに不倫による精神的苦痛が大きいので
つぐなうお金も高いといえるようにも思います。

 

慰謝料についての重要な判決!

平成31年2月19日に最高裁判所で慰謝料についての重要な判決がでました。

この判決については多くの判例雑誌で取り上げられております。

私も多くの判例雑誌を読みました。

 

私の回答(2020年12月時点)

不倫相手が夫をだまし、脅迫するなどして夫婦を離婚に追い込んだような事情がある場合には、
慰謝料は高くなると思います。

そのような事情がない場合には、高くならないかもしれません。

以下では、そのような回答になった理由について、
ご説明致します。

 

慰謝料についての重要な判決について

この判決の事案は、
夫が元妻の不倫相手に対して、
不貞慰謝料ではなく、
離婚慰謝料を請求したものです。
(不貞慰謝料と離婚慰謝料の違いの説明は省略致します)

 

判決文の一部分

「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、
これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、
当該夫婦の他方に対し、
不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、
直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。

第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、
単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、
当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして
当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られる」

 

判例雑誌の私法判例リマークスNO61の42ページ以下

京都大学の木村敦子准教授は以下のように書かれています。

「本判決が第三者に対する離婚慰謝料について示した判断枠組みを手がかりに、
被害者の権利と加害者側の権利・自由を衡量した結果として・・・、
第三者に対する不貞慰謝料請求権を限定ないし否定する解釈が十分考えられる

 

さすがに、裁判所が、第三者(不倫相手)に対する不貞慰謝料請求を否定する判断をするのは難しいと思います。

ですが、この判決が不倫相手に対する不貞慰謝料請求に影響すると考えるのが
自然なのだと思います。

 

判例雑誌の判例タイムズ1461号と判例時報2420号

これらの判例雑誌の解説に解説を書かれた方の名前は書いてありません。

これらの雑誌では、ほぼ同じ内容の解説がされております。

判例タイムズ1461号28ページ以下から引用します
(判例時報68ページ以下から引用しても同じですが)。

「不貞慰謝料額の算定において、
これまでの下級審の裁判例では、
不貞行為の結果、婚姻関係が破綻し、離婚するに至った場合においては、そのことを考慮することが多かったといえるところ、
本判決の考え方からすると、単純に損害として離婚自体慰謝料を上乗せすることは許されないものと考えられる。

他方で、不貞行為の結果、婚姻が破綻し、離婚するに至った場合には、
不貞慰謝料の被侵害利益である「夫又は妻としての権利」という人格的利益に対する侵害も大きかったものと評価できるであろう。

したがって、前記のような事情について、
慰謝料の増額要素として考慮すること自体は許される

 

この解説からすると、
不貞慰謝料請求案件において、
不倫をきっかけに夫婦が離婚をした場合に、
前記のような事情があれば、
慰謝料の増額が許される

ということになると思います。

 

慰謝料の増額が許される前記のような事情?

私としては、

前記のような事情=当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情

と考えるのが自然なのかと思っております。

 

そして、離婚のやむなきに至らしめたという部分については、
判例タイムズ1461号の30ページには以下のように書かれております。

「単なる不貞行為では足りず、客観的に何らかの付加的な行為
(例えば、不貞関係をもった配偶者を騙し、脅迫するなどして離婚に追い込んだ。)
があった初めて「離婚のやむなきに至らしめた」と評価されることになる

ですので、最初に述べたような回答になりました。

 

不貞行為をきっかけに離婚したとして高額な慰謝料を請求された方は、
ぜひお近くの弁護士にご相談ください!